ジョエルがもらった声

 

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あらしのまえぶれなのか、朝からぱらぱらと雨が落ちてきました。ジョエルはベッドからゆっくりと起き上がり机のまえにすわりました。そして気づいたのでした、自分の中に何も新しい歌が浮かんでこないことに。「おかしいな」ジョエルは思いました。そこでランチのあとまで待ってみました。ランチのあと、ジョエルはそれでもまだ何も浮かんでこないことに驚きました。ジョエルは考えました、「もう少し待ってみよう。きっと夕食のあとだったらこんな変な気持ちはどこかにいってしまうさ。」でも何も変わりませんでした。

 

それから何日もたちました。ジョエルには、ことばひとつさえ浮かんできません。頭の中のメロディもどんどん消えていきました。ジョエルは不安でしかたがありませんでした。

 

やがて土曜日がやってきました。ジョエルはひとりで列車に飛び乗り、そして奇跡をいのりました。長く静かな時間が流れました。ジョエルはナップサックを引きずりながら打ちひしがれた気持ちで家に帰り着きました。お父さんはその姿をみて、ジョエルに言いました。

 

「どんなに偉大な作曲家でも休養は必要さ。父さんと母さんはいつでもお前を誇りに思っているよ。」

 

それからの数日、ジョエルは友だちといっしょにいろいろなことをして楽しみました。歌をつくることをのぞいて。ジョエルに笑顔がもどり、お父さんとお母さんもほっとしました。

 

 

夏が終わりました。

 

セコフ家が音楽で満たされることはもうありませんでした。そしてしばらく休みをとったあともジョエルが歌を作ることはありませんでした。つらい気持ちで歌を書きつづけることができなかったのです。そしてある夜、ジョエルは "みはらしの丘"に向かいました。そしてはっきりとわかったのです。どうして歌を作れなくなってしまったのかを。「ぼくにはもともと歌を歌ったり音楽を作ることなんてできやしないんだ」物悲しい夜空を見上げてジョエルは思いました。「どうかこの楽譜をだれかに、歌を歌える人に」ジョエルは涙をこらえながらナップサックを開きました。冷たい風は、まるでジョエルの想いに応えるように楽譜を吹き飛ばしていきました。楽譜はヒューヒューと吹く風にのり、くるくるまわりながらまるでメリーゴーラウンドの幽霊のように飛んでいきました。

 

「さようなら、僕の音楽」ジョエルの胸はその言葉でいっぱいでした。

 

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